一人が好きだけど寂しいあなたへ。飼い猫ハナが私に教えてくれたこと。

天涯孤独
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一人が好きな人と猫との相性が良いのをご存じですか?

私は昔から何をするのもどこへ行くのも一人の方が快適でした。

そんな私が10年前母を亡くして天涯孤独になったとき、感じたこともない喪失感に押しつぶされそうになりました。

生きる意味を見失っていた時に救ってくれたのが飼い猫のハナの存在です。

私はハナが22歳で天に召されるまでの約9年間の共同生活をおくりました。

干渉されるのが嫌いなハナは私そのもの。

距離のある関係でしたが、時に寄り添いながらも私に生きる力を与えてくれました。

この記事ではハナとおくった日々を振り返りながら彼女が教えてくれたことをお話します。

一人が好きだけど時々寂しさを感じる方へ少しでも心に響くものがあれば幸いです。

背中で語る生きる意味

共同生活をはじめた時のハナは13歳。

人間でいうと52歳で当時の私よりお姉さんです。

食欲旺盛で毛艶もそこらの若い子には負けていません。

生きることに意味を感じなくなっていた私を目覚めさせてくれたのはハナでした。

母の死と向き合うことができずに泣いてばかりいる私をじっと見つめていたハナ。

彼女もまたひとりで寂しさに耐えていたのかもしれません。

それでも何事もなかったかのようにごはんを食べる小さな背中に大きな生きる力を感じました。

猫の体内時計はとても正確です。

休日であろうとお構いなしに、毎朝決まった時間に起こされます。

朝ごはんを与えて水を新しくしてハナのトイレ掃除をする。

床に近い生活を送る彼女のために、床は常に清潔な状態を保たなくてはいけません。

私は自然に早起きになり、こまめに掃除をするようになりました。

ハナのお陰で自堕落な生活を送らずにすんだのだと思います。

私一人だったら何もする気にならなくて、だらけた生活になっていたかもしれません。

自分以外の為にすべきことがある。

そのことが私に生きる力を与えてくれました。

ちょうど良い距離感

ハナと私にはちょうど良い距離感がありました。

一般的に猫は単独行動を好みます。

「寝子」と呼ばれるとおり1日のほとんどを寝てすごします。

その子の性格にもよりますが一匹で過ごすことをあまり寂しいと感じないとも言われています。

ハナは小さい頃から抱っこが嫌いでした。

抱き上げると私にかまわないでと言わんばかりに手足をピーンと突っ張って全身で拒否します。

遊んでほしくて私の顔色をうかがうこともありません。

助けてほしい時に少しだけ助けてくれる。

ハナにとって私は飼い主という同居人のような存在だったのかもしれません。

お互い干渉しあわない関係。

一人で過ごすことが好きな私にとってちょうど良い距離感でした。

そこにいてくれることの安心感

一人が好きでも寂しい時があります。

突然母のこと思い出して涙がとまらないとき。

会社で嫌なことがあって落ち込んでいるとき。

そんなときハナはさりげなく私に寄り添ってくれます。

座る私の背中に自分の背中をもたれさせるようなスタイル。

隣にきて顔を見上げるのではなく、自分はそっぽを向いています。

ただ黙ってそこにいるだけなのに、少しだけあたる背中が温かくて不思議と安心感があるのです。

私の方がハナに甘えていると実感した出来事がありました。

それは2019年10月に発生した台風19号通称「ハギビス」です。

広い範囲で記録的な大雨と暴風をもたらし多大な被害を引き起こしました。

私の住む関東に直撃したのは週末の土曜日。

いつも通っているヨガスタジオは臨時休業でした。

窓の外を見ると雨風はどんどん強くなってきています。

テレビでは未曾有の台風への注意喚起を呼びかけています。

未曾有(みぞう)。

「今まで一度もなかったこと」や「非常に珍しいこと」を意味することを初めて知りました。

ニュースの煽りもあって次第に不安になってきました。

窓が突風で割れたらどうしよう。

避難所へ行く羽目になったらハナはどうなるのだろう。

母を亡くして初めて本当の意味で独りであることが怖いと感じました。

私が取った行動はハナを抱きかかえること。

いつもなら嫌がってスルリと逃げ出すハナがその時はじっとしています。

「仕方がないわね」

とでも言うように目を閉じて身を預けてくれるハナ。

私の方が抱きしめられているようでした。

夜が明けると台風一過の青空が広がっています。

いつも通り朝早くから起きていたハナを抱き上げると、彼女は両足をピーンと伸ばして逃げていきました。

ハナの異変

ある時期からハナは食べても吐く事が増えてきました。

ひどい時は一日に2回以上吐くことも。

ある年の7月の朝。

窓際でぐったりするハナの姿がありました。

口も半開きであきらかに寝ているのではありません。

声をかけると起きてきてごはんを食べ始めました。

“よかった。食欲はある”

少し安心して出勤のため家を出ましたがなんだか落ち着きません。

駅について電車待ちをしていても心がざわざわして嫌な胸騒ぎがします。

「帰ろう」

着た道を走って戻りました。

帰宅するとハナは朝と同じ窓際に横たわっていました。

側によると「ニャー」と口が動かすものの声が出せないでいます。

家を出るべきではなかったと後悔しました。

会社へ休みの連絡をして、かかりつけの動物病院へハナを連れていきました。

「ハナちゃん頑張ってるね~」

女性の先生が優しく声をかけてくれます。

点滴をして検査をすることになりハナを預けて一旦帰宅しました。

病院へ戻ると点滴のおかげですっかり元気になったハナ。

検査の結果、腎臓・甲状腺機能に異常があることがわかりました。

年を重ねれば身体に不具合がおこるのは人間同様。

延命治療のために投薬と週に1度の通院を開始することになりました。

毎週土曜日16時半がハナにとっては訪れてほしくない時間となりました。

嫌がるハナを新調したキャリーバックに押し込みます。

キャリーバックは手で持つタイプを使用していましたが、肩から下げられる物に変えました。

雨の日でも傘をさせること、持病の腱鞘炎が悪化してで手で持つのが辛いことが理由でした。

これなら混雑した待合室でも床に置かずにカンガルーのように前に抱えることができます。

バックの中を覗くと”早く帰りたいんですけど”と言うように

「ニャーーー」

と長めに鳴いて私を睨んでいます。

はじめの頃は薬を飲ませるのにも苦労しました。

ネットで調べると”猫に薬を与える方法”が3通りあることがわかりました。

  1. ウェットフードやおやつに薬をまぜる
  2. 猫の頭を上に向け、口を開けて薬を喉の奥に入れる
  3. 粉薬を少量の水で溶かしてシリンジで口の脇から少しずつ与える

2の直接口へ入れる方法は、一人でできる技ではないと最初からあきらめました。

1の薬をおやつに混ぜる方法も試してみましたが失敗でした。

どんなに小さくしても器用によけてしまうからです。

最終的に3の錠剤を粉状に砕いた物を水で溶いて飲ませる方法に落ち着きました。

シリンジで吸った薬を口にピュッと投入します。

間違えて顔に噴射して思い切り蹴飛ばされることもありました。

それでも一週間後には一発でハナの口に命中するようになりました。

最後のメッセージ

延命治療のお陰でハナとの共同生活はその後も続きました。

そして10ヶ月後の5月。

ハナは静かに息を引き取りました。

亡くなる一ヶ月前から急激に食欲がなくなり、横になる時間が多くなりました。

立ち上がってもまともに歩けず、トイレへ行くことさえ難しい状態です。

私はリビングに犬用のサークルを設置し、留守中はそこにトイレ、ベット、水、フードボールを入れて過ごしてもらうことにしました。

狭い空間に閉じ込めるのは可哀相でしたが、ぶつかって怪我をする可能性を考えると仕方がありませんでした。

サークルの中はどこでトイレをしても良いようにペットシーツを敷き詰めておきました。

その日仕事を終えて帰宅してサークルの中のハナに声をかけると”ニャン”と短く返事がありました。

最近では珍しくはっきりした声です。

「ごはん食べようね」

ハナをサークルから出してベットへ寝かせました。

一瞬だけその場を離れチュールを取りに行きます。

あんなに食欲旺盛だったハナが、なんとか口にしてくれる雄一の食べ物でした。

戻ってみるとあきらかにさっきとは様子が違うハナがいました。

苦しそうに「フーフー」と荒い息をしています。

どうしたら良いのかわからない私はただ背中をさする事しかできませんでした。

やがて息が静かになり、わずかに動いていた瞼が動かなくなりました。

「嘘でしょ。ハナ?ハナ?」

呼びかけて抱き上げてもいつものように足をつっぱることはありませんでした。

頭が真っ白になりながらも、ハナは私の帰りを待ってくれていたのだと気づきました。

猫は自分の最後の姿を人に見せないといいます。

既に動かなくなった彼女を前にした私が動揺しないように配慮してくれたのかもしれません。

「私がいなくても、しっかり生きていくのよ」

ハナが発した最後の”ニャン”にはそんな激励が込められていたのではないかと感じています。

おわりに

私とハナとの共同生活についてお話ししました。

お互いに干渉し合うのが嫌いな私たちは、絶妙な距離感を保つパートナーでした。

時には静かに寄り添ってくれる優しい家族でもありました。

そのパートナーであるハナを亡くし、私は本当の意味で独りになりました。

けれど不思議と孤独感はありません。

どんなに辛いことがあっても、生きていくしかない。

だからいつもの場所でいつものように過ごす。

そのいつもを続けることの大切さをハナから学んだからです。

最後に不思議な話をもう一つ。

ハナが亡くなったあと、何年も治らなかった腱鞘炎の痛みが嘘のように消えました。

“猫がこの世を去る時に飼い主の病気を持っていってくれる”

これはあくまでも神話の中でのおはなし。

だけど諦めかけていたヨガを継続できているのも事実です。

「まったく手がやけるわ」

大好きな母に抱かれてこちらを見下ろしている姿が目にうかびます。

「ありがとうハナ」

小さな背中で教えてくれたことをしっかり胸にきざんで進んでいくからね。

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